「肩が痛いから肩を揉む」「腰が痛いから腰に電気をあてる」これらは一見“正解”のように思えるアプローチですが、本当に痛みの根本改善につながるでしょうか?
整骨院に訪れる患者さんの多くが訴える“痛み”には、実は痛んでいる場所と原因の場所が一致しないケースが少なくありません。
その代表が「関連痛」や「放散痛」と呼ばれるものです。
本記事では、整骨的視点から見る関連痛・放散痛のメカニズムと、それを踏まえた評価・施術プランの立て方について、実践的に解説していきます。
「関連痛」「放散痛」とは何か?
● 関連痛
関連痛とは、痛みの原因がある部位とは異なる場所に痛みを感じる現象です。神経の経路や内臓−体性反射などの影響により、実際の障害部位から離れた部位に痛みが出ることがあります。
例:
腰椎のトラブル → 太ももの外側やふくらはぎに痛み
頸椎由来の障害 → 肩甲骨の内側や腕に痛み
● 放散痛
放散痛とは、痛みが神経に沿って広がっていく現象です。神経根や末梢神経が刺激・圧迫されることで、その神経支配領域に沿って痛みやしびれが生じます。
例:
坐骨神経痛 → 臀部から下肢後面にかけての痛み
頸椎ヘルニア → 肩~腕~指先への放散痛
なぜ「部位だけ」にとらわれると危険なのか?
例えば、腰が痛い=腰に問題があるという思い込みは、短期的な対症療法に終始しやすく、根本改善を見逃すリスクをはらんでいます。
関連痛や放散痛のメカニズムを理解せずに施術すると、
・本当の原因にアプローチできない
・効果が一時的で再発を繰り返す
・患者の満足度・信頼が低下する
といった問題に直結します。
整骨院に求められるのは、“痛みの部位”に引っ張られず、“本質的な原因”に迫る評価力です。
整骨的評価で見るべき視点
痛みの「場所」ではなく、「経路」を診る。これが整骨院のプロフェッショナルとしての視点です。
以下の3ステップを意識することで、評価力は格段に高まります。
① 神経支配と筋連鎖から推論する
痛みの出ている部位が、どの神経支配領域にあるかを明確にします。また、筋肉の連動(アナトミートレインなど)を踏まえて、どの筋・関節の問題が他部位に波及しているかを考察します。
例:
肩の前側が痛い → C5神経の支配領域 → 頸椎の評価が必要
大腿外側の痛み → 腰椎のL2~L3神経根の圧迫の可能性
② 問診で「広がり方」を詳しく聞く
関連痛や放散痛は、痛みの感じ方や広がり方に特徴があります。
・どこからどこへ広がるか
・押した時の痛みと、動いた時の痛みは同じか
・しびれや感覚鈍麻はあるか
これらの情報から、筋・骨格由来か神経由来かの仮説が立てられます。
③ 触診と整形外科的テストで仮説を検証
評価の仮説が立ったら、各種徒手検査を行い、痛みの再現性や神経根への刺激の有無を確認します。
・スパーリングテスト(頸部神経根圧迫)
・SLRテスト(坐骨神経)
・FNSテスト(大腿神経)
・Tinel徴候(末梢神経障害)など
実際の臨床ケース:太ももの痛みは「腰」が原因
40代男性、主訴は「右太もも前面の痛みとしびれ」。整形外科では坐骨神経痛と診断され、湿布と痛み止めで様子見とのこと。
▶ 問診・動作観察
・太ももの痛みは歩行時と椅子からの立ち上がりで悪化
・前屈時に腰が引っ張られる感じあり
・SLRテスト:陰性
・FNSテスト:陽性(右大腿前面に放散)
▶ 評価と推論
・腰椎L2~L3レベルの神経根刺激が疑われる
・腰椎前弯の減少と可動性低下あり
・腸腰筋の緊張、股関節屈曲制限あり
▶ 施術と経過
・腰椎のモビライゼーション
・腸腰筋のリリース
・骨盤・股関節の可動域改善
→ 1週間後には太ももの痛みが半減。2週で日常生活に支障なしに。
整骨院に求められる“統合的な視野”
整骨院は、いわゆる「痛み取り」ではなく、「痛みの構造解析」と「再発予防」こそが本質です。つまり、筋・骨格・神経・動作・生活習慣を総合的に評価し、“木を見て森も見る”視野が必要です。
関連痛・放散痛は、その評価力が問われる場面です。解剖学的知識に基づき、なぜそこに痛みが出ているのか?を言語化できることは、信頼と結果に直結します。
痛みの「場所」ではなく「経路」を診る
痛みの原因は、痛い場所とは別にあることが多い。これは整骨院の現場では常識とも言える考え方です。特に、関連痛や放散痛は、見た目だけでは判断できない厄介な症状である一方、それを的確に見抜けたときの説得力と効果の大きさは計り知れません。
患者さんが「この先生は本質を見てくれている」と感じる瞬間は、まさにこのような評価力が発揮されたときです。
痛みの奥にある構造的な原因までアプローチできる整骨院として、日々の評価力を磨き、より精度の高い施術を目指していきましょう。