動作観察から導く施術プラン構築法

整骨院での施術において、問診や視診、触診は欠かせない初期評価の基本です。その中でも、特に重要なのが「動作観察」です。動きには“身体の声”が如実に表れます。日常生活やスポーツ動作の中で、患者さんがどのように身体を使っているかを観察することで、痛みの原因や負担のかかっている部位、さらには再発リスクまで読み取ることができます。

本記事では、整骨院における「動作観察」のポイントと、それを施術プランに落とし込む実践的なプロセスについて、具体的な事例を交えてご紹介します。

なぜ「動作観察」が重要なのか?

「痛みのある場所=原因」とは限らない、というのは臨床ではよくある話です。例えば、腰が痛い患者さんの原因が股関節の可動制限だったり、肩こりが足関節の不安定性から来ていることもあります。こうした離れた場所”にある原因を見つけるために必要なのが、「動作観察」です。静止状態では分からない動きのクセ、左右差、代償動作が明らかになり、それが痛みや不調のヒントとなります。

動作観察のポイント

動作観察では、単に「動かしてもらう」だけでは不十分です。以下の視点を持って観察することで、より的確な分析が可能になります。

1. 動きのスムーズさ
→ 関節の可動域制限や筋出力の低下があると、動作がぎこちなくなります。

2. 左右差の有無
→ 片側のみの可動性低下や筋緊張がある場合は、そこに過負荷が集中している可能性があります。

3. 代償動作の有無
→ 本来使うべき筋肉が働かず、他の部位で動作を“代償”している場合は要注意です。

4. 重心の移動や軸のズレ
→ 姿勢の乱れや体幹の不安定性から、無意識にバランスを取ろうとする動きが見られることがあります。

代表的な動作観察項目と評価例

実際の問診・評価では、以下のような動作をよく使います。

◆ 立ち上がり動作
→ 股関節や膝関節、足部の協調性を見ることができます。骨盤が傾く、片側に体重が偏るなどの兆候が見られた場合、患部以外の評価が必要です。

◆ 歩行
→ 歩幅の左右差、骨盤の回旋、つま先の向き、踵の接地状態などから、運動連鎖の乱れをチェックします。

◆ しゃがみ動作(スクワット)
→ 股関節・膝関節・足関節の連動性を見る基本動作。体幹の安定性や、股関節の可動域制限、膝の内側への倒れ(ニーイン)など、さまざまな問題を可視化できます。

◆ 上肢挙上(肩の動き)
→ 肩甲骨と上腕骨の動きの連動(肩甲上腕リズム)を見ることで、肩の可動域や筋の使い方が分かります。

施術プランへの落とし込み方

観察結果をもとに、施術プランをどう組み立てるかが整骨院の“腕の見せどころ”です。

① 動作から「仮説」を立てる
たとえば、「しゃがむときに膝が内側に入る→股関節外旋筋群の機能低下の可能性」など、観察結果を元に構造的な仮説を立てます。

② 触診・徒手検査で仮説を検証
動作観察で立てた仮説に対して、実際に関節可動域や筋緊張、圧痛などを調べて裏付けを取ります。

③ 初回施術の目的を明確化
「この筋の緊張を取れば膝が真っ直ぐになる」「この可動域が出ればしゃがめるようになる」など、動作改善を目標に設定します。

④ 次回来院時に動作再評価
前回と同じ動作を再評価することで、施術の効果判定が客観的にできます。患者さんにも変化を体感してもらいやすく、信頼にもつながります。

ケーススタディ:腰痛患者の例

ある40代男性。主訴は「立ち上がるときの腰の痛み」。

▶ 動作観察
・椅子から立ち上がる際、上半身を大きく前傾させて勢いで立ち上がる
・膝関節の屈曲が浅く、股関節の動きが少ない
・足部は外旋し、体幹が左に傾く

▶ 推測される問題
・股関節伸展制限と殿筋の筋力低下
・体幹の安定性不足
・下肢の運動連鎖の乱れによる腰部への代償負担

▶ 施術プラン
・股関節周囲筋のストレッチと促通
・骨盤・体幹の安定性トレーニング
・足部のアライメント調整
→ 1週間後には立ち上がり動作がスムーズになり、腰痛が軽減。

動作は“習慣の写し鏡”。だからこそ動きを診る

人間の動作は「癖」や「習慣」が染みついたものです。動きを変えるということは、身体の使い方を変えること。これは「その場しのぎの治療」ではなく、根本的な改善を目指す整骨院にとって極めて重要な観点です。

問診の段階で動作をしっかり評価できることは、施術の精度を高め、無駄な遠回りを避けることにもつながります。そしてなにより、“患者さんに気づきを与える”という価値を提供できます。

動作観察から導く施術プラン構築法 | まとめ

整骨院での施術は、単に痛い場所を揉むのではなく、「なぜそこに負担がかかっているのか?」を見極めることが求められます。その第一歩が「動作観察」です。

動作観察を通じて、痛みの原因を探り、個別に最適化された施術プランを構築することで、患者さんの信頼を得られる整骨院運営が可能になります。

“動きを診る力”は、施術家にとって最大の武器。問診の質を高め、整骨院の専門性をより深く伝えていきましょう。

柔道整復師がセミナーを受けるならRAKUSHOWセミナー

 

関連記事

  1. オスグッド病のケアと日常生活での対処法

  2. 柔道整復師オススメ 自宅で出来る腰痛セルフケア

  3. 寝違えの症状と痛み