整骨院に訪れる患者さんの多くは、「痛み」を主訴として来院されます。
確かに、痛みの軽減は大切な治療目的ですが、それだけにフォーカスしてしまうと、本質的な解決に至らないケースが多く見られます。その理由は明白です。
痛みは結果であり、原因ではないからです。整骨院の施術者にとって重要なのは、「なぜ痛みが出たのか」「どうすれば再発を防げるか」という“構造的かつ機能的な理解”です。
本記事では、「痛み」を超えて「機能」に着目した整骨的評価の方法、特に可動性・安定性・協調性という3つの観点からのアプローチについて解説します。
痛みと機能は必ずしも一致しない
まず理解しておきたいのは、「痛みがある=機能が悪い」とは限らないということです。逆に、「痛みがない=問題がない」わけでもありません。
たとえば、
・痛みはないが、股関節の可動域が著しく制限されている
・運動時に膝の内反が強く出ている(動的アライメントの崩れ)
・体幹が弱く、姿勢保持ができていない
このようなケースでは、まだ痛みが出ていなくても、近い将来の痛みや怪我のリスクが高い状態にあるといえます。つまり、痛みよりも一歩先を診る評価が必要なのです。
可動性・安定性・協調性の三位一体の視点
「機能評価」というと専門的な響きがありますが、基本はシンプルです。
身体を支えるうえで不可欠な3要素:
・可動性(Mobility)
・安定性(Stability)
・協調性(Coordination)
この三要素が、部位間・動作間でバランスよく働くことが、機能的な身体といえます。
それぞれの定義と、整骨院で実施できる評価方法をご紹介します。
① 可動性(Mobility):動く力
可動性とは、関節が適切な範囲でスムーズに動く能力を指します。
関節の可動域(ROM)や、軟部組織の柔軟性、筋膜の滑走性などが関わります。
● 整骨院での評価法
関節可動域テスト(例:肩関節屈曲・外旋、股関節内外旋など)
筋長テスト(ハムストリングス・腸腰筋・大腿筋膜張筋など)
動的ストレッチでの伸張感の確認
● 観察ポイント
動作時にどの関節が“詰まって”いる
代償動作が出ている部位はないか
左右差が顕著でないか
② 安定性(Stability):支える力
安定性とは、関節を動かす中で姿勢を保つ能力のことです。主にインナーマッスルや深層筋が関与し、姿勢保持・関節制御に大きく関わります。
● 整骨院での評価法
ブリッジ、片脚立位などのバランステスト
スタビリティテスト(例:肩関節における肩甲骨の安定性)
体幹安定性テスト(例:腹圧保持テスト、デッドバグ)
● 観察ポイント
動作時に姿勢が崩れないか
支えの側がぶれていないか
表層筋が過剰に働いていないか
③ 協調性(Coordination):連携する力
協調性とは、複数の筋肉・関節が適切に連動して動作する能力を指します。
スポーツ動作や日常の複雑な動きには、この協調性が不可欠です。
● 整骨院での評価法
FMS(Functional Movement Screen)の一部導入
スクワットやランジの動作観察
上肢の投球動作・下肢の歩行動作観察
● 観察ポイント
動作にスムーズさがあるか
筋力が強くても動きがギクシャクしていないか
呼吸やリズムとの同調性があるか
機能評価に基づく施術計画の立て方
痛みのある場所にだけアプローチするのではなく、「なぜその部位に過負荷がかかったのか」を突き止めることで、施術の的確性は格段に高まります。
例:膝関節の痛みの場合
・可動性低下: 股関節や足関節の制限 → 膝への代償動作
・安定性低下: 大腿四頭筋や内転筋の筋力不足 → 膝のブレ
・協調性低下: 歩行パターンの崩れ → 同一部位の過負荷
こうした要因を踏まえ、可動域改善の手技、筋機能活性、動作トレーニングを組み合わせた統合的な施術計画を構築していきます。
「痛みのない今」を評価する価値
多くの患者さんは「痛みが出てから来院」しますが、機能評価をベースとしたアプローチを提示することで、
・パフォーマンスアップを目的とした来院
・痛み予防のためのメンテナンス通院
・姿勢や動きの改善指導
といった、“新しい整骨院の価値”を提供することができます。
予防医学・機能改善・パフォーマンス向上といった領域は、今後ますます求められるテーマです。
評価技術の向上は、それに応えるための大きな武器になります。
まとめ:整骨院も「痛みを診る」から「機能を診る」へ
整骨院における評価と施術は、いま「機能性重視」へと進化しています。単に痛みを抑えるのではなく、身体が本来持っている「動ける力」「支える力」「連携する力」を最大限に引き出す。それが、患者さんの人生の質(QOL)を高める真の貢献です。
可動性・安定性・協調性。この三つの視点を持ち、患者の身体機能を正しく評価することで、私たち整骨院は「治す」から「支える」「育てる」存在へと進化できるのです